NOAA-AVHRRデータの見込み角・温度依存性に関する検証

門崎 学(総合研究大学院大学)、山内 恭・平沢 尚彦(総合研究大学院大学・国立極地研究所)

 


1.はじめに

 極域の水蒸気の輸送は全球的な熱エネルギーの交換に大きく関係し、地球規模の気象に大きな影響を与えている。特に海氷分布が雲の生成過程に及ぼす変化を検証することは重要である。それには昭和基地で受信したNOAA・DMSP等の衛星データを用いて研究を進めることができるが、雲と海水・氷床が混在する南極域ではそれぞれを分類することは難しい。この問題を解決するためにスプリットウィンドウチャンネルの僅かな輝度温度差から雲の検出を行う方法が考案されている。観測対象を捉えるセンサ角度(見込み角)については、過去にデータとの関係を調査した研究(Yamanouchi et al. 1987)があり(NOAA-7)、加えて観測対象が雲のない雪氷面であっても、その温度によって輝度温度差が変化することも報告されている。

 本研究では、現在のNOAAのキャリブレーション処理を行った上で残るセンサの見込み角依存性と輝度温度差の観測対象温度依存を事前に評価する必要があると考え、統計的に再検証した。

 

2.データ・解析手法

 昭和基地のTeraScan Systemで受信した極軌道衛星NOAAのAVHRRデータの中から比較的データエラーが少ない14号のデータを使用した。とりわけ広範囲にわたり晴天域が広がっており、雪氷面が確認できる領域を抽出し、赤外域にあたるチャンネル4(10.8μm)・5(12.0μm)をデータ解析に用いた。

 データ量の縮小とキャリブレーション後のステア化を防ぐために4画素ごとに1つの割合でピックアップしたデータをさらに4×4画素で平均化して、生データの1/16のサイズのデータセットを作成した。

 見込み角依存を調査するために、チャンネル4の観測温度を5°ごとに区切り(衛星直下:0°、最端:55°)、その範囲のチャンネル4・5の輝度温度差を平均し、その値を衛星見込み角に沿って求めた分布を図1に示す。なお、それぞれ-80〜-85℃:97/8/31、-60〜-80℃:97/6/3、-45〜-60℃:97/10/20、-20〜-45℃:97/11/19に対応するデータを使用した。

 また、見込み角による温度依存性の検証のため、見込み角ごとにチャンネル4・5の輝度温度差を雪氷面温度に沿って求めた分布を図2に示す。データは上の日付に97/5/6を追加したデータセットの全温度範囲において平均化せずに使用した。

 

3.結果・考察

 図1より衛星直下点から見込み角が増えるに従って(画像の端になるほど)、チャンネル4・5の輝度温度差が大きくなる(平均0.5℃)ことが分かる。これは、Yamanouchi et al.(1987)の結果で輝度温度差の増加が2℃程度になる場合もあるのに比べ、増加幅は小さい。観測対象の温度別にみるとはっきりとした違いは確認できなかった。NOAA-7のデータとの相違の原因は今後の課題である。

 観測対象の温度依存に関しては図2より約-80℃の極低温域で輝度温度差が0℃を示し、グラフで確認できる約-25℃までは約1.5℃に正の差が広がることが認められた。このとき見込み角による違いはほとんど見られない。これにより、NOAAのキャリブレーション処理が行われているが観測対象の温度依存は確実に存在しており、-85〜-25℃にかけて、輝度温度差が最大1.5℃(約2%)に広がることを明確にした。

 

−参考文献−

YAMANOUCHI,T., SUZUKI,K., and KAWAGUCHI,S., 1987, Detection of clouds in Antarctica from infrared multispectral data of AVHRR. Journal of the Meteorological Society of Japan, 65, 949-962.


2 CH4-CH5の雪氷上温度依存(見込み角0〜50度)

 

1 CH4-CH5の見込み角依存(雪氷上-20〜-80度)